土の道。わだち。誰がいつ、どんな乗り物でつけたものなのか。
勝手に想像を膨らませながら、てくてくとわだちの跡をおいかけるのは、
やっぱりちょっと、楽しい。

おじさんの花束

先週の、冷えこんだ曇りの朝。
いつもの道を自宅から事務所までてくてくと歩いていて、
小さな交差点で信号待ちをしていた時のこと。

交差点の反対側にある、膝の高さくらいの低い手摺で囲まれた小さな緑地帯、
というか、もはや平凡な雑草の茂みのようにしか見えない場所に、
スーツ姿の人影が動いているのが見えた。

信号が青になったから、
横断歩道をその茂みのほうへと向かってゆっくりと渡った。

低い手摺に囲まれた雑草の茂みの中では、
よれた感じの黒いスーツのズボンをはいて、白いワイシャツの上から斜めに
肩掛けかばんを下げた、おそらく出社前のサラリーマンなのであろう、
ひとりのおじさんが、ごそごそと何かをしている様子だった。

横断歩道を渡る人たちは、おじさんには目もくれず、
駅にむかって足を急がせていく。
おじさんは、逆にそんな人たちには目もくれずに、
下をむいて一心に何かをしている。

こちらが横断歩道をゆっくりと渡りおわって、茂みに近づいた時、
おじさんがふいにすっくと起き上がって、顔をあげた。

その時、おじさんの左手には、ぎっしりと草花の束が握られていた。

自分には凡庸な雑草の茂みのようにしか見えなかったその場所で、
スーツ姿のおじさんが、それらの草たちを楽しそうに摘んでいた。

通行人は相変わらずせわしなく駅へと向かって急いでいる。

おじさんは、左手に持った草花の束をぎゅっと握ったまま、
茂みの中から足をあげ、手摺をまたぎ、
揚々とした足取りで駅とは反対の方向に、交差点を渡っていった。

茂みの中からふと顔をあげた瞬間の、おじさんの、
どこか少年のような明るい顔が、寒い冬空の下でぼんやりと目の奥に残った。

トタン

駅前再開発によって空き地になったのであろう場所。
近く、この周囲一帯もすべて更地になってしまうのかもしれない。
古ぼけたトタンの壁が夕日に光っていた。

藪のなか

正月の山。素朴な道。知らない誰かの足跡。
冬の低い光が射しこんで、とても暖かかった。

垂直の森

歩きつづけた山道のなかで、ふいに出くわした蒼い森。
恐ろしさと崇高さが同居してるような、不思議な幾何学空間。

写真

年始から、事務所のインスタグラムのほうにも、
去年撮りためて放置していた写真をいくつか挙げてみています。

車や電車の中からではなく、自分の足でてくてくと歩いた中で見つけた場所。
自分が心惹かれる、ありふれた小さな景色と空間について。
https://www.instagram.com/tadashima.architects/

新年

年始に煎餅屋さんでおまけにもらった飴の袋に、
小さな紙切れが入っていて、

待ち人、遅けれど来る。
焦らず、気長に待て。
気持ちに迷いなくば早く叶う。
さわぐと損。

と書かれていました。

「さわぐと損。」

今年も自分の頭で考え、
自分の手を動かし、
自分の足で静かにゆっくりと歩けたらと思います。

本年もどうぞ宜しくお願いいたします。

唯島友亮