地面の踏みかた

あれほど大事そうにベースを抱えて弾くひとは他には絶対いないと思っていたけれど、何人かの人の背中ごしに5カ月ぶりに見たそのひとは、重たい音を弾くたびにググっと強く左足に力を入れて、足元の地面を踏みしめていた。

あんなにも強く地面を踏みしめたことは今まで一度もないかもなあと思って、演奏を聴いているあいだ、何度か自分でも同じように足元の地面を踏んでみた。地面を強く踏めば踏むほど、その反発で自分の身体がグイッと強く浮き上がる。踏みしめた地面が、何かの力を自分にくれる。

ステージの上のそのひとは、靴底の下にある地面から浮き上がってくるその力をそっくりそのままベースに乗せて、ステージの隅でひとり黙々とその音を鳴らそうとしているのかもしれない。まるで大切なひとの宝物を預かっているかのように大事に大事に抱えられたベースの、そのもっとずーっと下のほうの暗がりで、青いアディダスの靴が何度もわずかに上下に揺れる。

あんなふうに暮らしていけたらなあ、と思った。