山の肩

この前の夜の山の右肩。
ぞくりとした。流れる雲もなく、なんの音もしなかった。

綿毛

見上げているのは、目の前のそれじゃない。
見えているそれじゃない。

透明な紙の線の上に知らず知らず膨らんでしまった期待と意識をパチンと弾いて、なんとなく遠くのほうに投げてみる。どこからか風が吹いて、ふわふわと遠くの霧のむこうまで飛ばされていくと良い。

損をすること

事務所をこの小屋に移転してから、あともうちょっとでようやく1年。

笑ってしまうほど寒かった冬をようやく越したと思ったら、笑ってしまうほど暑いあの夏の日々が梅雨を越した先にふたたびやってくる。そう思うだけで身体が去年の夏を思い出して固まりだす。それからちょっと笑ってしまう。

季節というものはなぜだか愉快で、可笑しみのあるものだ。小屋にいると、そう思う。この心地よい気温の春のうちに、できるだけのことはやっておこう。それからまたあたらしい工夫を凝らして、ひとつひとつ、なんとか次の季節をむかえられると良い。えんやこらさと季節が進んでいくと良い。

「思想とはある考えによって損をすること、と定義したひとがいた。」

遠い時間のむこうのある日、あるところで、高須賀さんはそんなふうに書いた。