
ある失われてしまった命をぼんやりと思って、目が覚めた朝。
忘れないようにしたいと思う。
だけどひとは、いつかどうしても忘れてしまう。
どんなものが見えたのだろう。
それを想像すると、蒼くてどこかぼんやりとした、霧のような雲のような流れのような澱みのような、なにかそういうものの像がゆらゆらと意識の内に浮かんでくるような気がして、それってなんだか山のようだなと思った。

ある失われてしまった命をぼんやりと思って、目が覚めた朝。
忘れないようにしたいと思う。
だけどひとは、いつかどうしても忘れてしまう。
どんなものが見えたのだろう。
それを想像すると、蒼くてどこかぼんやりとした、霧のような雲のような流れのような澱みのような、なにかそういうものの像がゆらゆらと意識の内に浮かんでくるような気がして、それってなんだか山のようだなと思った。

前の日の夜から降りだした雨は、まったくやむ様子がない。
濃い霧が風に飛ばされて、時たますこし先の山が見える。
あちこちからたくさんの水が流れこんできて、太ももまで浸かるようなところもある。
川をくだるようにして、山をくだる。

去年もさんざん雨にふられたけど、今年もやっぱり雨だった。
ツェルトのなかは完全に水没。槍の穂先はまったく見えない。
小雨のなかをとぼとぼと登って登頂。
肩のところまでおりたとき、パーっと一瞬霧が晴れた。
山のかたちがくっきりと見える。
たくさんの岩の重なりから、どうしてあんな幾何学が生まれるのだろう。