稜線

朝、1時間ばかり電車に乗って、はじめての駅におりて改札を通って外へと出たとき、道のむこうにくっきりと、ある山の大らかな稜線が見えた。

次々に車の通りすぎる大通りを歩いて駅から目的の場所へとむかう道すがら、その稜線は2階建ての家やビルの影にかくれてすっかり見えなくなってしまったのだけれど、目的の場所に着いたとき、畑のむこうにもう一度その山の稜線がぽかーんと大きく浮かんでいるのが見えた。

ずーっとむかしのある時にも、あの稜線をこの場所から見ていたひとがいたのだろう。そのひとはきっと地面の土を耕しながら、あの稜線を仰ぎ見ていたのだろう。なんだかそのことを忘れずにいようと思った。