若い頃よく読んだ小説のひとつに「緑したたる島」という名前の短編がある。
小説の内容そのものも勿論とても好きなのだけれど、そのタイトルがそれ以上に本当に素晴らしい。

「緑」も「したたる」も良いのだが、なんといっても「島」がいい。
もしあの短編のタイトルが「緑したたる町」とか「緑したたる森」とかであったとしたら、その魅力は自分にとっては半減してしまいかねない。

「緑」が「したたる」のが「町」や「森」のような確たる場所ではなく、「島」というどこか遠くの儚い場所、流れ着く場所であるからこそ、現実世界から切り離された孤立したもののイメージがぼんやりと浮かんでくる。「島」という言葉に水や波のさざめくイメージが含まれているからこそ、「したたる」の言葉が生き生きと意味を帯びてくる。「島」という言葉にはどうやら自分を惹きつける不思議な力がある。

、、、というような、なんだか誰にも伝わらなさそうなことを、事務所へむかう玉川上水沿いの緑道を歩きながら考えた。雨の日の薄暗い湿原の池糖や浮島をぼーっと眺めに行きたいなあ、と梅雨空の下で思う。