山の道をつくった人

山に道があるから、そこを歩く人は花や木を見ることができる。山に道があるから、ひとは風景を自分の足で見つけることができる。道が、そこを歩くひとに道ばたの花や木の素朴な価値を伝える。

たった1本の道が、何千もの風景をうみだす。
たった1本の道が、ひとをどこか遠くの場所へと連れだす。

その1本の道をつくるために、たくさんの思いや生活が注ぎ込まれる。いくつもの手がその場所の土を突き固める。谷に木を渡し、石をならべる。それからその道の上を数えきれないほどの足が歩いていく。たくさんのひとがその道の跡を辿っていく。

その過程で、長い時間のなかで、その道をつくったひとの存在や思いはたくさんの踏み跡の背後にすーっと消えていき、ついには道そのものの存在さえもゆっくりと消えていって、風景だけがそこに残される。

細く長くのびていく山の道を歩いて、その道をつくったひとのことを考えた日があった。目の前につづいていく踏み跡の、その奥深くに消えたもののこと。この道をつくったひとたちのように、建築をつくっていけたらなあと思った。