山のこだま

シラビソ、オオシラビソ、トウヒ、カラマツ。
しーんとした針葉樹の森にぐるりと周囲をかこまれた山の池は、ちょっとの音や小さな声がこだまして、ほんとうによく響く。

夕方、テントのそばの池のほとりに座っているとき、小屋のひとがなかなか現れない宿泊者のひとを探しに、池の反対側からこっちまで歩いてきた。どうやら宿泊予定のひとが途中の山でちょっと道に迷ってしまったとかで、小屋に着くのが遅れてしまっているらしい。心配そうな顔つきの小屋のひとはそのまま池のまわりを奥へと進んで、森の入口のあたりへと向かっていく。

「おーい、○○さんいますかー!?」
小屋のひとの大きな声がきーんと冷えた静かな池のまわりにこだまする。

「はーい!!」
もうじき日没を迎えようとする薄暗い森の見えないどこかから、女のひとの元気な声が返ってきて、それから間もなく、ほっとした顔をした小屋のひとと宿泊者のひとが、そろりそろりと池のところへ歩いてきた。