ミモザの頃

サックスを手にしたひとが、いつもと同じ場所で、いつもと同じ曲を、いつもと同じように、いつもと同じ演奏者たちのなかで吹いた。

前に聞いた時とのかすかな違いは、その間に流れた時間、その間にそのひとが積み重ねた生活。何も変わっていないかのようで、変わっていってしまったもの。誰も気づかないほど小さくて、誰にも見えないほど大きなもの。サックスを構える腕のむこうに、そのひとの過ごしたなにげない日々が見えたような気がした。このひとはひとりで吹いているんだと思った。