セミ

この前の雨あがりの夜、今年はじめて聞いたセミの声はそのあとパッタリと聞こえなくなった。みんな、目の前に迫った満開の夏の訪れを、地面のなかで一緒に待ち構えているのだろうか。

近所の若い三毛猫はステンレスのポストのうえにペターっと腹一面をくっつけて、蒸し蒸しとした夕方の街に可笑しな顔を浮かべて呆けていた。このところの雨は遠い日の湿原を思わせるものなのか、ベランダの食虫植物から次々に新芽が生えてくる。

小屋のところでは軒下で雨宿りをしていた二羽の鳩がちょっとだけ気まずそうにこちらを見る。古いシャッターをガラガラと開けると、ひとりのヤモリが大慌てで軒裏へと駆けだしていった。