カラス

今朝、古い本のなかで一羽のカラスが「ああ」と鳴いた。

「かあ」ではなくて「ああ」と捉えてみるだけで、カラスの存在はまったく違ったものに思えてくる。「ああ」と鳴くカラスの声からは、なんとなく乾いたブルースハープの音にも似たものが聞こえてくるような感じもする。

この1年ちょっとの間にそれぞれのひとの胸のうちにぼんやりと浮かんだ「ああ」というため息を積み重ねたら、どのくらいの高さになるんだろう。あるいはまた、それぞれのひとの前からかき消されていった「ああどうも」「ああ」といった類の会話を数えたら、いったいいくつになるんだろう。

いつもの池のところには今日はあんまりカラスの影はなく、黄色いショウブが水面を見つめて静かに咲いている。事務所にいって机に向かうと、窓の外がどうにも騒がしい。「はああ!はああ!」地べたから湧きあがるような野太い声を響かせて、どこか見えないところでしきりに鳴きつづけているカラスがいた。