ある尾根の木

深い霧が出ていた日。山の上のひらけた場所で、枯れたまま立ち尽くしている木があって、その立ち枯れた木の枝のかたち、その手のさしだし方に思わず目がいった。そぎ落とされ、骨格だけになってもなお、何かが生きた鼓動をしっかりと記録しながら立っているもの。内部がすかすかに空疎なものとなってもなお、その場所のうえを通りすぎていったものの記憶をぼんやりと見つめているもの。そんなものが、ほかにいくつあるだろう。