山のひと

山を歩いている見知らぬひとを無闇に写真におさめることを慎もうと思う気持ちは、ふと訪ねた旅先の小さな教会の内部をカメラに写すことをためらう気持ちと、どこかとてもよく似ている。

山の上で日が暮れて、道の横になにげなくひとりのひとの影が浮かんだ。その影のあまりに純粋な形に思わずシャッターボタンを押してしまい、それから我に返り、影くらい、背中くらい許されるかな、、、とひとり悶々と苦しい言い訳を心の中にならべながらとぼとぼとテントのところに戻った。振りかえると、影はもうまっさらな夜の闇にのまれていた。