線をまたぐ

先日、鳥取のある茅葺き民家の内部を見学させていただいた時、天井材が漆で仕上がられ、小さな床の間まで設えられた、とても綺麗な部屋がありました。隣には木製桶のあるお風呂場。

脱衣場のように使うであろうこの部屋に、なぜこのような豪華な設えがされているのだろうか、と案内をしていただいた居住者の親戚の方に聞いてみた時のこと。

そこは客間の延長にあるお客様用の風呂場と脱衣場であるがゆえに、漆や床の間による設えがされており、そのような格の高い場所には子供の頃から日常の中で一度も足を踏み入れたことがなく、内部を一般に公開するようになって、初めてその部屋がどんな部屋なのかを知りました、との答え。

振り返ると、客間と居間との間には小さな段差があり、さらにもう1段、脱衣場の入口にも僅かな段差がつけられていました。

日本の木造建築の近代化・民主化は、余分な部材や段差を消し、線の少ないフラットな空間を求めるところから始まったものだと思います。近代化の中で消し去られてしまった「1本の線」の中に込められた深い意味と長い時間とを想いました。

写真は「勝浦の家」の床。桧のフローリングの小口にフローリングと同じ幅の見切りをまわし、豆砂利洗い出しの土間からほんの少しだけ浮かせています。