トレーシングペーパーに描いた図面は、たしかに自分自身の右手右指が描いた線だから、それはそれなりにひとまずは確からしい。
けれどその線は薄くて透明でつるつるとした紙にシャープペンシルで描いたものだから、ほかの紙と重ねてしばらく置いておくうちに、紙と紙がこすれて段々と薄くなる。描いた当初はキリっとシャープだったはずの鉛の線は、他の紙に押しつけられたり、流されたりしているうちに、いつしかぼうっと曖昧になる。はっきりとしていたはずのものが、はっきりとしなくなる。確かだったはずのものが、ゆっくりとどこかに遠のいていく。
確からしさを持っていたはずのものが1枚の紙の上でどこかに紛れて消えていこうとするときの感じは、朝には見えていたはずのむこうの稜線が気づかぬうちに空気のなかにぼやけて見えなくなるときの感じにも似て、さりげなく、のんびりとして、静かだ。翼をひろげた知らない鳥が、その羽を動かすこともなく、悠々と飛んで、遠近法のむこうに小さくなっていくような、なんだかそんな気配もする。