土間のところの段差に腰かけて靴を履こうとするとき、足元の暗がりのところを小さな蜘蛛がてくてくと横切っていくのが見える。いつもではないけれど、この土間の主のような彼は、たいていのんびりとその暗がりを歩いていて、立ち止まったり考えこんだり、時には早足になったりしながら、どこか見えないところに姿を消していく。土間の隅っこにある彼の家はたいてい空っぽのがらんどうで、夕方になると低い軒の先端からこぼれてくるわずかな太陽を透かすようにして白っぽくひかり、どこかから吹いてくる低い風にさらさらと揺すられながら、まるでどこか深い山の中の1本の木の先端から垂れ下がる細い枝のように、雫のようなものをぽとりぽとりと暗がりに落としつつ、静かに、ただその場所に在るように存在している。