最近はじめて訪れた町で、それぞれの町の夕日に出くわすことが何度かあった。
山にかこまれた盆地にある平らな町、斜面にくっつくようにして立っている小さな町、やわらかな海をかかえた港の町。それぞれの町にはそれぞれに固有のかたちのようなものがあって、そうしたかたちをほんの束の間、夕日のおちていく前のひとときが空のむこうにくっきりと浮かびあがらせているようでもあった。
昼の空気に霞んでいた遠くの島や、雲のむこうにかくれていた向こうの山。あるいはそのまたむこうに横たわっていたおだやかな山脈。
きっとその町のひとたちはそうしたかたちに囲まれて、ずーっとむかしからその場所で暮らしてきたのだろう。真昼の時間には見えてこなかったそんなかたちのいくつかが、あっと息をのむ間もなく冷えた空気のむこうにふっと浮かんで、それから真っ暗な夜がしんしんと歩み寄ってきて、深い闇がそうしたかたちのひとつひとつをすっぽりとくまなく覆い隠していく。闇にかくされてしまう前のかたちを、ひとはなんとか自分の心にとどめようとする。
はじめて訪れた町で夕日を見ることができると、だからほんの少しだけ、その町のかくされた姿のようなものに親しむことが出来たような、なんだかそんな気分になることが出来るわけで、きっとそれは新参者のいだく幻影ではあるけれど、それはそれでひとつの町とひとりのひとの関係のあり方なのではないかと思ったりもする。
ひとが古いものを壊し、新しい建物をたて、山を削り、海を埋め立てても、それでもなおたいして変わることのないその町のかたちがあるとしたら、そのかたちに出会うことが叶うのは、あざやかな朝でも明るい真昼でもなく、暗い夜の訪れる前のほんのわずかな数分の間であったりもするのかもしれない。