十字路を左に折れるそのちょっと手前のあたりで、やっぱり、たぶんきっと今日はもう、直視することは出来ないんじゃないかと思った。
店の中の煎餅はもうほとんどなくなっていたけれど、かつてたくさんの手焼き煎餅が賑やかに並べられていた棚の上には、街のひとたちが贈った花たちがいくつも咲いていて、その花の一番奥の方におかあさんが寂しそうに立っている。
「こういうもの、もう、とっておいても仕方がないから。」
そんなふうに小さく言って、お店の名前が印刷された紺色の包装紙を、おかあさんは何枚か袋に入れてくれた。いつも手土産を包んでもらっていた包装紙は緑色のものだったから、それとは色違いの紺色の包装紙は、なんだかちょっと特別なものの感じがする。
おかあさんのうしろの引戸は半分くらい開いていて、その引戸のすぐ裏側では、おとうさんがいつも煎餅をつくっていた机のところで、今日もまた何かをしている。今まで食べさせていただいた煎餅の御礼と、いつも手土産に買わせていただいた煎餅の御礼をおかあさんにお伝えしていると、おかあさんは少し右側に歩いて、それからそっと、開いていた引戸を後ろ手で静かに閉めた。
誰も気づかないくらいのさりげなさで。誰にも気づかれないくらいの表情で。
「当店の手焼きせんべいは、私たちが家族で、心をこめて焼いている正真正銘の手焼きせんべいです。」
そんなふうに胸を張って言える手づくりの何かが、いつか自分にもつくれる日が来るだろうか。家に帰って、紺色の包装紙を机の上で丁寧に開くと、懐かしい糊の匂いがつーんと鼻を突いてどこかに流れた。