春の前

自転車を漕いで温まった身体で、きーんと冷えた小屋へと入る。
梯子をのぼってトタンの湯たんぽを卓上のガスコンロで暖める。

ぽっ。と火がついて、冷えきったトタンの表面がじりじりと音をたてる。火が水を暖めていく音は本当に静かで、それでいてなんだかやわらかい。いつまでも聞いていられるなあー、と思いながら仕事の準備をはじめているうちに、自転車で温まった身体がぐんぐんと冷えていく。

じーっと動くことのなかった透明な水が、次第にふつふつと音をたてて、湯たんぽのなかで少しずつうごめきだす。窓の内側でぼんやりと座っているツタ性のガジュマルがぷっくりと葉っぱを充実させ、元気よく太陽のほうを向いている。

もうすこしすると、春なのかもしれない。