思っていたよりも雪の少ない峠の道を、落ち葉を踏みながら少しずつあがっていく。
一歩一歩ゆっくりと登るごとに、手前の山のうしろにかくれていた別の山の姿がちょっとずつ見えてくる。もう少し道を登ると、ふたつの山が連なって、ひとつの稜線が生まれる。そうしてしばらく歩いていくと、今度はその稜線のうしろにまた別の山々の稜線がゆるやかに重なって、ひとつひとつ微妙に色合いや明るさの違ういくつもの蒼い層が視界の先にのびやかにひろがっていく。
奥秩父の山々のむこうに、真っ白に輝く八ヶ岳の峰々がすーっと立ちあがってくる。目の前の道の右手ではきのう歩いた稜線のうしろに、どーんと構えた富士の頂がぐんぐんと大きくなって天を衝く。振り返ると、一列にならんだ真っ白な南アルプスの手前に甲州の小さな山々が静かに手を繋ぎながら座っている。
ひとつとして似ているもののないそれぞれの山々が、ある時は連なり、ある時は重なりあって、大きなひろがりをつくっている。他の山から切り離されて独りで立っている山はどこにもない。もしそのように見える山があったとしても、それはもう少しこの道を登ったところから振り返って眺めてみれば、きっとまた違う見え方をしているのだろう。
ひとつの山は、他の山と連なって重なって、そうしてはじめて山になる。なんだかちょっと、ひとのようだなと思う。もし自分が今日この道を登ってこなかったら、そんなありふれたことにさえ、気がつかなかったのかもしれない。蒼く澄んだ稜線がいくつもの層になって空に透けている。
雪のつもった北斜面を西のほうから巻いていく。名前も知らない新しい山々のむこうに、いつか歩いた懐かしい小さな山々が見えてくるような感じがして思わず手を振って挨拶をしてしまいそうになる。林のむこうに見えなくなった蒼い峰々にもたくさんの感謝を伝えることができたら良いのになあと思う。
本年もどうぞ宜しくお願いいたします。