古い神社の脇から植林された杉林の中に入って、早朝、まったくひとの気配のない道をてくてくとのぼる。
その途中でふと脇道にそれて、ほとんど名前の知られていない小さな小さな山に寄ってみる。胸の高さほどまで茂った笹に晩夏の匂いがたちこめて、その合間にひとの通った痕跡がかすかに見える。
誰もいない。誰かがいた痕跡もあまりよく見えなくなってしまっているような小さな山の頂には、
一面の笹の海。蝉の声。
左から右、右から左へと張り巡らされた繊細な蜘蛛の糸を壊さぬように、その下をそーっとかがみながら通りぬけ、明るい稜線の道に出ると、小さな峠にひとつだけ、むらさき色の花が咲いていた。