夏めいた朝

小屋にむかう1時間ほどの自転車の道の、真ん中をすこし過ぎたあたりに、大きな農園と古い木造の民家があって、その農園の片隅に鉄管パイプで建てられた小さな東屋のような場所がある。

そこでは農園のひとがカゴに入れた野菜を売っていて、そのひとたちの日焼けした顔とうつむき加減の背中を忠実になぞるかのように、鉄管パイプの東屋は地を這うように低く構え、その下のひとがようやく立てるほどの高さの空間に、涼しげな黒い影を生みだしている。

今朝、しばらく降りつづいた雨が終わって一気に夏めいた空の下を抜けて、いつものように東屋の前を通りかかると、珍しく東屋には誰もおらず、しーんとした暗がりのなかに「雨の日はお休みです」と赤いマジックで書かれた小さな紙が貼られているのが見えた。

「雨の日はお休みです。」

その言葉のなんだか良い感じの響きを頭のなかで何遍もくり返しているうちに、自転車の道は次の農園を通りすぎ、ギラギラと太陽の照りつける一面のトウモロコシ畑の角を曲がって、それから古い材木屋さんの前へと差し掛かる。ざらりとした黄土色の土壁が塗られた小さな蔵の前では、夏の日射しの下で白いタオルを頭に巻いたひとが、目の前の木と格闘をくりひろげている。

小屋について自転車を停めて、それから窓を開け放つと、すぐ外の農園で元気に飛びまわるスズメたちの鳴き声の背後から、「ああ。。野菜がいっぱいしおれている。。」と呟く小さな声が漏れてくる。その溜息に鳥たちの声が重なって、やがてそれは晴れやかな笑い声にかわった。