なだらかな稜線のみちには、片側に明るい広葉樹の斜面がひろがっていて、シラカバやカラマツの姿がかわるがわる現れる。落ち葉の敷かれた地面は朝の日射しに照らされて白っぽく光ったり、ほんのりと赤く色づいたりしていて、そのむこうに蒼い山の連なりがのびやかにひらけている。
みちの反対側にはスギやヒノキの植林帯があって、時たま木々の合間からチラリと青い空が見えたりはするものの、びっしりと針葉樹の並んだ暗く重たい森が斜面の下の町のほうまで深く落ちていっている。
いくつかの小さなピークを越え、鞍部を過ぎ、次の山頂へとむかう急な登りがはじまるところに出ると、右手の斜面のほうでなにかの気配がする。なんとなくそっちを見てみると、道から外れた薄暗いスギ木立のなかに、切株に座っておにぎりを頬張っているひとの丸い背中があった。切株のひとの視線の先には、そのひとの背中と同じくらい静かな針葉樹の林がしーんと続いている。
あのスギを切ったひとは、自分の切った切株に座ってあんなふうに背中を丸めておにぎりを食べたりしたのだろうか。針葉樹の林の傍を通るとき、山の仕事の険しさや麓の村の厳しさをぼんやりと想う。自分の足元を通っている道は、いつだってそうしたもののうえに在るのだということを忘れないようにしたい。静かな背中をしたひとの手にあったおにぎりの白さが、なぜだかしばらく目の奥に残った。