遠いところ

「てっぺんへ出ると、私は素晴らしく大きくなった。山のように大きくなった。」

今にも押しつぶされてしまいそうなほどに重たい日々の暮らしを、淡々と短い言葉で刻みつづけたある古い女性の詩人の、その言葉の片隅に、ほんの時たまふわっと幻のようにたちあらわれてくる山のイメージは、たぶんそのひとの過ごした低い低い毎日の、その低さのぶんだけ高くて大きなものになるのだろう、

自転車に乗って小屋に来る道すがら、そんなことを茫々と考えた。

そのひとの詩のなかに存在する山は、地べたを這うような凡庸な毎日があってこその山なのであって、そのような日々のないところに、きっとあの山はないのだ。