谷底の蛍

暗い谷に時たま何かの拍子にうまい具合に光が射しこむと、細い枝や枯れ木や雑草や、そうしたなんてことのない平凡なものが、それ自体の内側からじんわりと光っているように見えるときがある。まるで山にかくれた小さな蛍の群れのように。この日の谷ではほっそりとした枝の群れがチラチラと蒼っぽい光を放ちながら、沢の左右を跳ねるように飛びまわって遊んでいた。