真夏の三角

前に来たときはまだ雪がのこっている頃だったから、7月も終わりに近づく真夏日に見る三角形のあの山は、きっとモクモクの入道雲の下だろうと決めこんで、地味な急坂をせっせと登った。

樹林帯をぬけだして、ぱっと視界がひらけたとき、むこうの三角は流れる雲の中にかくれて姿を消していた。休むような場所があるわけではないから、その場に立ったまま水を飲んだり食べ物を食べたりしてモゾモゾしていると、ごうごう吹く風の中からほんの一瞬、三角が顔をだした。分厚い雲がきれて、薄くて蒼い霧のようなものになり、三角のまわりをおおって、そのうえに青空が浮かんだ。

あっ。と思う間もなく薄い雲はふたたび分厚さを増して、白のなかに三角を消し去った。なにかを考えたり、見えたものを言葉に置き換えたりする暇なんてないくらいの、わずかな時間。けれどあれは、なんだかなつかしい時間だった。