誰もいない沢沿いの下りの道。最初、しーんとした山の中に、ぽとりぽとりと水の粒の音が聞こえて、その音は次第にさらさらとした流れの音に変わる。

道沿いには次第に小さな細い水の流れが出来てきて、その流れをまたいだり、飛び石の上を歩いたりしているうちに、少しずつ、本当に少しずつ水の流れが太くなってくる感じがする。

太いと言っても数歩で渡れるくらいの幅でしかない小さな流れには、木の板や丸太なんかが丁寧に架け渡してくれてあったりもして、その上を渡って、大きな石を踏みながら、何度も流れの左岸と右岸を行ったり来たりしながらゆっくりと下る。

その流れにいくつかの他の細い流れが次第に合流したりしてくると、次第に石のかたちや大きさも変わってくる。水の色が濃くなる。

水の音は「さらさら」から「ざーざー」に変わり、いつしか「ごうごう」や「どー」という音になって、気がつくと沢になり、その沢は山をおりたところで振り返ると、もはや音もない大きな川になっていた。

あたりまえの平凡なことだけれども。