いつも通る農園の、パイプで組まれた簡素な小屋の前にさしかかった時、ちょうど信号が赤に変わった。小屋の中を見ると、トマトやピーマンなんかの夏野菜が色とりどりに売られていたカゴの中身は、農園のひとたちが手作りしたたくあんと、それから白菜漬けだけになっている。

すっかり冬景色になった農園の前を発車して自転車を漕ぎはじめると、大きめの通りを1本渡ったあたりで、頭にかぶったニット帽に小さな何かがコンコンと打ちつけてくるのに気がついた。まだむこうの空は明るいのに。思わず天を仰ぐと、氷の粒がコツコツとひたいにぶつかりながら降ってくるのが目に入った。

でも、ちょっとくらいなら。呑気にそう思ってのんびり自転車を漕いでいくと、コンコンという音はみるみるうちにジャージャーという大きな音へと変わって、たくさんの氷の粒が視界をさえぎりはじめる。目の上のあたりに打ちつける小さな粒たちがなかなかに痛い。なにもこんなに寒い日に、氷まで降ってこなくても良いだろうに。。

今日の雲は南から北へと流れていたはずだから、このまま北へとまっすぐに走っていけばなんとかかんとか逃げ切れるかもしれない。古い商店街の脇をのびていく平坦な道を一目散に自転車を漕いで、北の小屋をめざした。