歩くこと描くこと

自分の足で山や森を歩くことと、自分の手で図面を描くこと。
そのふたつは、似ている。
時には、ほとんど等しいくらいかもしれない。

最近、明らかな実感をもってそんなことを思うようになった。
どちらもそれをしている間は頭の中がさーっと澄んできて、無心になる。
空っぽになった頭の上を、いろいろな空想が風のようにかすめていって、気がつくとどこかに消えている。

どちらもそれぞれ、歩ききることや描ききることが取り急ぎの目標ではあるのだけど、その目標が完了する前の、途中段階や過程の中に、自分が心を惹かれる瞬間があるような感じがする。自分の足を動かして山の中に入りこんでいくことと、自分の手を動かして図面の中に入りこんでいくことは、とてもよく似ている。

車やロープウェイで行けば手軽にたどり着けるような場所に、わざわざ息を切らせて歩いていくことの徒労と、コンピューターで描けば手軽に描ききれるような図面を、わざわざ手を黒く汚しながら何度も下書きし描きなおしていくことの徒労。

その無為、無駄、無意味さが、いまこの現代の中で消し去られた小さな何かをきらりと際立たせる瞬間が、ぼんやりと、でもたしかにあるような気がする。こんな状況で、山にはしばらく行けていないけれど、机の上にシャープペンシルとトレーシングペーパーと三角定規さえあれば、これさえあれば、何とかなる。

いや、でも、山には、行きたいな。。。