既にそこにいるもの

トントン、トントン。

ノックをしてもシャッターの向こうには何かが動く気配はない。留守かなあ。でも今日は到着がいつもより遅い時間になってしまったから、もう外は暑いしなあ。小屋の外ではセミたちが大きな声をはりあげている。

トントン、トントン。
もう一度慎重にシャッターをノックしてから、それからゆっくりと静かにそれを上へと開けていくと、やっぱり今日も。内側の網戸のところで右往左往するいつものヤモリがひとり。

網戸の下枠のところを右に行き、左に行き、結局ど真ん中にやってきて、ごめんごめんと謝るこちらの声にまたしても右往左往。こっちも見かねて右往左往。しばらくあたふたしてから、それから彼が網戸の端のほうへと移動したのを見て、驚かさないようにそーっと網戸をあける。

この小屋の偉大な先輩との毎朝の寸劇は光栄ではあるけれど、このくだり、そろそろなんとかうまく話し合って折り合いをつけたいような気もする。忘れてたと言わんばかりの大きな「チュン」の鳴き声が、小屋に入ってからしばらく経ったのち、ようやく窓の外から聞こえた。