掲載のお知らせ

たとえばいま、すぐそこに、なんてことのない一本の線があるとして、その線の片側にはそれを最初に描いた誰かがいて、もう一方の片側にはこれからその線をたどっていこうとする誰かがいる。一本の線は気まぐれにその両者をむすびつけたり、繋ぎあわせたり、時にはあっさりとその関係を切断してしまったりもしながら、悠々と静かにむこうのほうへとのびていく。

その一本の線のあとを追いかけているうちに、ついうっかりうたた寝をし、ふと起きて、寝ぼけた目でもう一度その線を眺めてみる。すると、さっきまで見えていたひとの姿はすっかりどこかに消え失せて、目の前の線は単なるただの線にしか見えず、その線のまわりには誰もいないガランとした空間がひろがっているように思えてくる。線は結局のところただの線でしかない。多くの醒めた目にとって、そうであるように。

けれどもそこでもう一度目をこすり、その線のこちら側やあちら側にいるのかもしれない誰かの存在を想像してみることをやめずにつづけることができたら、それはそれでひとつのちっぽけな意思のようなものの表明くらいにはなり得るんじゃないかと、そんなことを思い浮かべてみたりすることが時たまあります。

・・・

「どんな本でも良いので、本棚から好きな本を選んで書評を書いていただけませんか。」

新緑がみずみずしく山の斜面をおおって、あちこちでヤマブキの花が咲いていた春の頃、そんなうれしいお声がけをいただいて、それからゆっくり時間をかけて小さな文章をひとつ書きました。きのう発売になった『住宅建築10月号—山から住まいへ』の巻末に、ちょこんと掲載していただいています。

なにかを「評」するなんて、そんなたいそうなこと、自分なんぞには到底できるわけもないだろうと考えて、土に近いどこかとても低い場所から山の上の木をまっすぐに見上げるような気持ちで、自分が憧れつづけてきたもののことを書きました。『線をたどる』というタイトルの見開き2ページ弱ほどの小さな原稿です。もしも本屋さんでたまたま見かけたりすることがあれば、ちらりと一瞥いただけたらうれしいです。