市原の家

この土地をはじめて訪れた時、間口が狭く南北に長い奥行をもった敷地の中を、
北の方角からひんやりと爽やかな風が吹いていて、
その風は南に控える雄大な森へと抜けていっているようだった。

その一方で、台風の時期になるとその風はこの地域特有の暴風へと姿を変え、
住人は皆、固く閉ざされた建物の内側で嵐が去るのをやり過ごすことになるという。
この計画では、そんな刻々と変わる風の様相を中心に据えた家づくりができないかと考えた。

建物の外観は、背後に控える雄大な森を隠すことのないように、
できる限り低い高さに抑えて正対称の切妻屋根をかけ、
前面には道路からの視線と風を受け止めるガランドウのポーチを設えた。
また、ポーチに面する開口部を幅広の木製引戸のみに絞り、
北側の道路から南庭の縁側までを段差のない1本の緩やかなスロープによって繋ぐことで、
南北に線状にのびる風の通り道を建物の中心軸に据えた。

夏の穏やかな日に玄関の引戸があけ放たれると、
視線とともに吹き抜ける風が南の庭へと一直線に抜けていき、
その長い道行きの途中途中に、
天井の低い場所や高い場所、光に満ちた坪庭やそれに面した3つの室がリズミカルに展開する。
移動するたびに生まれるいろいろな距離感や小さな風景が1本の風の道を軸に周囲に広がっていく。
そんな光景を思い浮かべながら、図面を引いていった。

用途:住宅(新築)
規模:平屋 / 木造
延床面積:84.66㎡
施工:木組
写真:金田幸三

[掲載誌]
『住宅建築』 2020年10月号