峠のみち

峠の道として、遠いむかしの時間からたくさんのひとに踏まれてきたのであろう尾根道は、ホオノキや͡コナラの落ち葉がたっぷりと敷きつめられて、平らかで明るい。

バスのなかで眺めていた地図には、主要な道すじからそれたところに知らない名前の小さな山が3つほどちょこんと並んでいて、そのまわりになだらかな等高線がひろがっているのが見えたから、峠のみちをずーっと奥まで歩いていく前に、ちょっとそっちに寄り道をしてみることにする。

しーんとした小さな山頂は、北側と南側の木が切られていて、全部の方向にぐるりと風景がひらけている。笹尾根のむこうに丹沢の山々が重なって、真っ白な富士山や大菩薩の姿を横目に反対側を振りかえると、奥多摩の稜線が視界の隅の方までつづいている。

手前の木の合間をシジュウカラが楽しそうに飛んでいく。倒れた木のうえに橙色のチョウが舞い下りて、ゆっくり羽を休めている。寝そべった背中の下にあるササの枯れ葉がじんわりと暖かい。なんにもないけれど全部があって、自分はとにかくその邪魔にならないように、静かにじっとしているばかりだなあと思う。