半月

小屋からの帰り。ぶおんぶおんと大袈裟な音をたてて車やトラックが行き交う大通りの坂の途中、なんとなくひとつの木と目が合ったような感じがした。

その木の前を通りすぎ、しばらくペダルを漕いでから、それからやっぱり自転車を180°回転して登りかけた坂道を引き返す。さっきの木がさっきの場所に、まっすぐに暗闇を突いて立っている。

木のてっぺんの真上には白い半月がゆらゆらと揺れていて、すこし先の道ばたでは小さな花束を抱えたおじいさんが茫々となにかを見つめていた。