午後のこと

午後。部屋にある机の前にすわって、窓の外を見る。

南の窓から見える小さな公園には、葉っぱを落とした1本の木が大きく枝をひろげて立っていて、その木の丸い樹形の中から、ひとつの枝がひょろりと空につきだしている。ちょっとだけ、のびすぎてしまったのかなと思う。あの枝がのびたいように、空を見上げてそのまま自由にのびていってくれたら良いなと思う。

振り返ればいつだって、近くて遠いその木の姿を目の端に見据えながら暮らしてきたような感じがする。新緑の葉っぱが風に揺れる澄んだ音色が、毎朝のように部屋の中を通り抜けていた去年の春のことを、少しだけ思いだす。

つき出た枝の脇のあたりで動いていた小さな影が、ふいに目の前のベランダに飛んできて、窓の外の手摺にとまる。このところ毎日やってくるようになった1羽のヒヨドリが、いつものようにポサポサに頭の毛を逆立てた寝起きのような顔のまま、ランランとした丸い目で窓の内側を覗きこんでいる。

西の窓から入ってくる低い日射しが、机の上の飲みかけの珈琲に射してきて、その隣にある煉瓦色の小さなCDコンポを照らしはじめる。濃い黄色を帯びた光が重たいベースと透明なトランペットの音色をくるみながら、深いような乾いたような不思議なこだまを部屋の中に響かせて、その音と光の隙間からまどろんだ午睡の気配のようなものがゆっくりと溢れだす。

「ヒーョ!」

突然、甲高い声でヒヨドリが鳴いて、それからまたいつものように公園の木の中に翼をひろげて帰っていく。ふと顔をあげると、大きな木がだんだんと暗い影そのものになって、少しオレンジがかった空を背にくっきりと黒く自分のかたちを浮かびあがらせているところが見える。窓の外の夕陽が、今日一日の仕事を終えて急ぎ足で西のビルのむこうに消えていく。

変わらずにいつもそこに在るということは、何かから遅れていることや何かよりも劣っていることを意味しない。変わらないということは、強さなのだと思う。