コア

いつもよりセミの声が大きいから、イヤフォンの中の些細な音はそれらにかき消され、重いウッドベースの音と甲高いサックスの音がミーンミーンと繰り返される通奏低音をつんざいて、唐突に目の前をかすめる。

たまたまメラミンコアという素材のことを考えながら街を歩いていたら、ふつうの扉に「コア」という2文字がくっきりと黒い文字で書かれた表札を見かけて可笑しくなった。「論理の核としての思想のきらめく稜線だけを取り出してみせる。」大昔に読んだ芥川の言葉がからからと音をたてて頭の中を転がっていく。今日の小屋にはヤモリはいなかった。