むこう

街から川の土手をのぼっていく時や、
知らない土地の階段をのぼっていく時に、きっと誰もが感じるであろう
あの形容しがたいようなわくわく感は、いったい何の記憶に起因しているのだろう。

いつかそこに居たことのある気がする、見たことのない
懐かしい場所へと還っていくような、おだやかな楽しさ。

土手や階段のむこう側を想像している時、
人の記憶の古層にある何かが、落ち葉のようにカサカサと静かに音を立てて、
思い出すこともないであろう遠い懐かしさのようなものを
ひっそりと感じさせてくれているような、そんな気がする時が確かにあって、
それはとても貴重な瞬間だと思う。