かわらないもの

「どんな感情がひとのやる気を一番大きくするか、知ってる?」

設計の仕事に携わりはじめたばかりの頃、ある女性の先輩にそんなふうなことを聞かれた。なんですか?と答えた自分にそのひとは間髪いれずに早口で言った。

「怒りだから。」

机にむかうとき。三角定規を構えて鉛の線を一本一本走らせているとき。自転車を漕ぐとき。湯たんぽを抱えて丸くなっているとき。今でも変わらないものがあるとしたら、それはたとえばどんな感情だろう。

かわらないもの。かわれないもの。かわることができないもの。

きのうの小屋は春めいて、窓をあけると農園のひとたちがあちこちで土を耕しているのが見えた。鳥たちが春だ春だと鳴いていて、その声に背中を押されながらいつもの机やベニヤの床をせっせと雑巾で磨いた。