電車や車はあまり好きなほうではないから、
普段から東京の町は自転車か徒歩で移動している。
現場にも、それが例えば自転車で片道1時間半くらいの距離の場所であれば、
雨が降っていない限りは、基本的に毎回、自転車で通う。
木造の家の場合、最初に行われる工事は基礎工事なのだが、
基礎屋さんと話を出来る機会というのは意外と少ない。
大工さんや電気屋さんとはその後何度も会うことになるから、
いろいろと楽しい話をしたり勉強をさせてもらったりも出来るのだけど、
基礎屋さんとは顔を合わせて打合せをしたりはするものの、
ゆっくりと話をしたりすることもできず、いつもなんだかもどかしかった。
いつだったか、ある時、真夏のよく晴れた日に、いつものように
1時間半くらいの道のりをのんびりと自転車を漕いで現場まで向かった。
鼻歌なんぞを歌いながら、夏空の下を漕いでいった。
ちょうどその日は基礎工事がおこなれている日で、
現場に到着すると、はじめて会う基礎屋さんが2人で作業をされていて、
現場の前に自転車で到着した自分を見てチラッと顔をあげた。
「自転車で来れるってことは、近いんですか?」
「えーと、1時間半くらいのところです。」
はじめて会う基礎屋さんは「マジで??」と言って笑った。
顔をあげて2人とも笑った。やっぱり自転車での現場通いは
やめられないぞ、とひとり静かに心の底で思った。