地味な山

自分はどうやら、地味な山が好きだ。
なかでも、葉っぱが落ちてあたり一面が土色に染まる冬の季節は、すごくいい。

夏の空、素晴しい眺望、色とりどりの花、山頂の雲海。
そんな劇的な風景も勿論素晴らしいし、心から感動する。

でも、鮮やかなもの、劇的なものに期待をしながら山を歩いている時の自分は、
道の脇に立つ素朴な枯れ枝に射す光や、
ぬかるんだ土のなかに潜む小さな生き物や、
木の幹に刻まれた風や雨の痕跡を、きっと見過ごしてしまっているに違いない。

同じような地味な道を繰り返し繰り返し黙々と歩いていると、
山のなかの小さな差異、小さな命、小さな陰影に、
いつもよりすこしだけ敏感になれるような気がする。

ひとりで歩くのは、地味な道でいい。