港町の店

房総半島の小さな港町、
朝市で賑わう商店街の一角に佇むお好み焼き店舗の改装。

既存の店舗にあった気さくでのびやかな雰囲気をできる限り残し、
そこに最小限の手を加えることで、
既存のものと新しいものとが適度なバランスを保ちながら、
どこからが新しく、どこからが古いのか分からないような、
心地よい気楽な空間を生みだせたらと考えた。

軒を抑えた板張りの下屋、手作りの暖簾、使い込まれた木製の引戸、
勾配天井の吹き抜けと2階への開口窓、ルーバー天井と正面の黒いレンガ壁。
店先から奥へと順々に配されたそうした要素たちを、一定のばらつきを持たせたまま緩やかに繋ぎ、
過度な統一感や緊張感が生まれないように、新旧の境界をぼかしていくことを心掛けた。

古いものと新しいものの対比を際立たせるのではなく、
それらが曖昧に混ざり合った自然体の空間を周囲のやわらかな環境にそっと馴染ませていくことが、
懐かしさと潮の香りが入り混じるこの港町に相応しい
穏やかでさり気ない改装のあり方ではないかと考えた。

用途:店舗(改装)
リノベーション
規模:2階建 / 木造
施工:木組
写真:金田幸三