一宮の家

農家の離れとして40年ほど前から使われてきた木造建築の改修。

納屋や作業場としての用途も兼ねていた内部には、
限られた開口部から光が差し、暗がりと静けさで満たされた魅力的な空間が広がっていて、
はっきりとした秩序をもって伝統的な工法で組み上げられた柱や梁の架構からは、
この建物をたてた棟梁の明晰な思考とともに、
長い時の試練に耐えたものだけがもつ風格のようなものが感じられた。

改修にあたっては、この建物がその身に刻み込んできた時間や記憶を最大限尊重して、
既存の構造体を新しいもので覆い隠すことは一切せず、
もともとの架構のもつ力強さと大らかさとをそのまま受け継ぎながら、
そこに現代の生活のスケールに対応した小さな架構を新しくつけ加えていくことを試みた。

家具や棚板、建具の枠、障子の組子などの部材を架構の一部のように扱い、
重厚な構造体との連続性を保ちながら、緩やかにスケールを絞っていくことで、
長い時間に耐えた大きな構造体と、これからの生活を支えていく小さな細部とが
混然一体の架構となって全体が組み上げてられていくようなあり方を目指した。

新旧の木で組まれた洞窟のような内部から、湿り気を帯びた海岸沿いののどかな風景を眺めていると、
いつかどこかで見た遠い過去をのぞき込んでいるような不思議な懐かしさに襲われて、
無名の木造建築たちがその土地その土地で脈々と積み重ねてきた長い時間とその技術の連続性とを
今さらながらまざまざと実感させられる想いがした。

用途:住宅(改修)
施工:木組
写真:金田幸三